緑のトンネル(シナリオ版)
都市、日曜の夜、春ももう終わり。
虫たちもここでは鳴くことに意味を見つけられないでいるよう。
それほどにここは鬱蒼とした静かさに包囲されている。
日中は確かにここはノイズの海だ。
けれどもそれは機械の軋む音と、自然が構造に飲み込まれる瞬間が絶え間なく回転している
現象が存在しているだけ。それだけのことだ。
生き物の呼吸からの喧噪はここには、無い。
「こんばんは」
「こんばんは」
「今日も」
「今日も」
「だれもいないね。。。」
「。。。うん、今日もだれもいない」
”私”はいったいどこに向かっている途中なんだろう?
この突然コンリートの柱と柱の隙間にあらわれたトンネルは何なのだろう。
一見、トンネルだが、どこへ通じているのか全く検討がつかないし、そもそもトンネルと
表現できるほどの形を成してはいないし。
おそろしく密度の濃く生い茂った針葉樹の並木道だった。背もそれほど高くはない。
クリスマスツリーのにれの木が束になって連なって中心に向かってもたれかかっているような
ものだった。
「この道は砂漠の国につながっている」
"私"と一緒にいるこの少年のこの言葉は確信に満ちていた。
この緑色の通路がどこに通じているかを知っているという自信というよりも(むしろそれは全くない)”ここをどうにかして僕たちは通らなければならない”という使命を背負っているような決心に思えた。
「行ってみたい」
私は、別にそれを信じた訳ではなかったけど、そうつぶやいた。
....そしてわたしは、その緑のトンネルへ向かって歩き出した。
「止まって。」
少年は、私に注意をうながした。
「このトンネルの中では立ち止まってはいけない。来た路も振り返ってはいけない」
....
「だから、僕らは走っていかなくてはいけない。
息を止めて
目をつむって。
まぶたが明るさを感じるまで、急いで駆け抜けるんだ。
お互いを失わないように手をつないでゆくんだ。
」
「.....わかった。」
私はなぜ、息も止めなくてはいけなくて、目もつぶっていなくてはいけないのか気になったが、うなずいた。
私と少年は多分、ずうっと前からの知り合いだった。
友達というほどに何かを共有してきたということもない。
お隣さん的な関係で、おそらくこれからもそうなのだろう。
このトンネルを二人で駆け抜けた後でもおそらくこの距離がちぢまらないだろうと感じた。
続く。
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